13話








 


「それはね・・・」

 お姉さんの声がくすぐったくて、僕は思わず体を震わせた。どきどきする心臓をおさえながら、お姉さんの答えを待つ。

「内緒!」

「え、」

「だから、ひみつ」

「ええ〜!」

 お姉さんは口元に指を当て、軽くウインクをした。僕はまだウインクができなくて、やっぱりお姉さんは大人なんだなあと、変なところで感心した。

じゃなくて!

「ずるいよ! 僕お姉さんが話してくれるのずっと待っていたのに」

「あはは、ごめんごめん。なんだか面白い反応だからさ」

「むー」

 僕は頬を大きくふくらませた。普段は小さな子どもっぽくてはずかしいからしないけれど、どうせ今はお姉さんしかいないのだ。

 そんな僕の様子にさすがに悪く思ったのか、お姉さんは懐からなにかひらべったいものを取り出した。

「じゃあこれ、ヒント」

「? なにこれ」

 受け取ってよく見てみると、それは透明なCDケースだった。中には何も書かれていない真っ白なCDが一枚入っている。僕のよく聞く戦隊レンジャーのCDならレッドやブルーの絵が書いてあるけれど、何の曲が入っているのかはわからなかった。

「君のお父さんたちに渡してごらん。そうしたらきっと、答えをくれるから」

「本当?」

「うん、だから絶対、お父さんたちに渡してね」

「わかった!」

 僕がしっかりとケースを握って答えると、お姉さんは、満足そうに頷いていた。

「あ、そうだ。お姉さん」

「うん?」

「お姉さん、のなまえ・・・・・・」

(あれ?)

 急に頭がくらくらしてきた。まぶたが重くなり、お姉さんの体に寄りかかる。

「あらら、さすがにずっとこの匂いの中にいるのはキツかったみたいだね」

 お姉さんはすぐ近くにいるのに、顔がよく見えない。目の前が真っ黒になって、体に力が入らなくなった。それでももらったケースだけははなさないように、手のひらでギュッと握り締めた。

(なんだろう。眠くなってきちゃった)

「とりあえず早くここから出ようか。よっと」

 体がふわりと浮かび上がった。お姉さんに抱っこされているのだ。

「お姉、さん」

「大丈夫、すぐお母さん達のところに連れてってあげるからね」

(ちがう、違うの。まだ寝たくない。お姉さんとお話したいよ)

「ありがとうね、優太くん」

 お姉さんが頭を優しくなでてくれた。その感触が気持ちよくて、僕はそのままぐっすりと眠ってしまった。

(どうして、僕の名前を知ってるんだろう)

 結局僕は、お姉さんに名前を聞けなかった。





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2013,09,28