3話
「こんな風に2人っきりなのって久しぶりだよね〜」 「そうだ、聞いて聞いて!このあいだ久しぶりに前の学校の友だちに会ってね、塾の帰りに待ち合わせていっしょに遊んだんだ」 クロは、自分がここにくる前のことがまったく思い出せずにいる。 それはシロも同じらしく、気が付いたら2人この部屋に倒れていたらしい。誰かに誘拐されたのではとも考えてみた。だが、ロープなどで自分たちを拘束するようなこともないし、見張りもいない。ただの誘拐事件、とするには不可解な点が残った。 「そこでクイズを出し合ったんだよ。あのね、ある時目を覚ますと、そこは知らない部屋の中で・・・・・・」 こうしてみると、ここは『あの部屋』に似ているかもしれない。もちろん床一面に広がるゴミの山もないし、わずかな光も差さない暗闇でもないが、出られないところは同じだろう。床や壁を叩いてみてもびくともしない。まるで箱の中にでも閉じこめられたようだった。 「部屋から出ようと何重にもかかっているカギを開けていくんだけど、最後のひとつがどうしてもできない。そうしているうちに7日がたち、気を失ってしまう。そして目が覚めると、また知らない部屋の中にいるんだ」 ふたたび視線を下ろし、足元に出来た自分の影を見下ろす。身につけている服よりも若干薄いそれは、クロの動きに合わせ頼りなく揺れる。長袖から見えるやせ細った腕には、マジックでかかれたような黒いらせんが、まるでヘビが巻きつくようについている。一体どこでつけたんだろうか。
「『さて、これは一体どういう状況でしようか?』」 冗談っぽくかしこまって話すシロの声が、白い部屋のなかで一際よく響いた。 たのしそうににやけた顔で問題を話すシロ。そのすがたをみて、クロはふと、どうしてコイツは俺にかまうのだろうと疑問に思った。 クロは相変わらずシロが苦手だった。というより嫌いだった。うっとうしく絡んでくるのも嫌だったし、何よりシロは―――自分とはあまりにもちがう人間だったからだ。 シロの両親は健在で、一人息子であるシロをとても可愛がっていた。それはありふれた普通の家庭の姿だった。そのしあわせそうな姿を見るたびに、クロの体の中に苦い感情がにじんだ。 あるいは 「正解はね、『実は部屋の外の世界は滅んでて、自分だけが生き残って避難した、さびしさを紛らわすために自分が死ぬまで部屋から出ようとするゲームをしている。』でした!難しかったでしょ?わからないよね〜」 シロはアハハと声を上げて笑う。そして、 「ねえ、クロ」
シロの声色がガラッと変わった。抑揚のない声に驚き顔をむければ、シロのどこかつらそうな笑みがこちらをみていた。 「オレ、この部屋からでないほうがいいんじゃないかって思うんだ」 |