4話



「・・・・・・は?」

 クロは呆気にとられて、シロの顔を見る。

何をいってるんだコイツは。ここからでないほうがいいとか、なんで

 

「なにいってんだよお前…・・・なんで」
「ねぇクロ、教えて。クロは本当にこの部屋から出たいと思ってる?」
 話に割り込むようにシロが唐突に投げかけた。
「そんなの出たいに決まってんだろ。何で急にそんな」
「この部屋からでれば、クロはきっともっと傷つく。クイズの答えみたいに、部屋の外はきっと絶望でしかない。そんな世界で、生きたいと思う?」

 あまりの発言とシロの表情に、クロは何も答えられなくなった。ばかばかしいと笑い飛ばすには、その表情は真剣すぎた。
「オレはクロが傷つくところはみたくない。そのくらいだったら、オレは。」
「ずっと2人、この部屋にいるほうがいい。」
 シロはそう言い切って、宙をを見る。思いつめたようなシロの表情に漠然とした疑問と不安を感じた。

 クロはシロのことがわからなくなっていた。こんな風に荒々しく言葉を紡ぐシロを見たことがなかったからだ。

なんで、何でそんなことを。この部屋の外が、絶望? ・・・・・・どうして

 頭のなかがぐちゃぐちゃになって、よく分からなくなる。うつむいてみれば、白い床に自分の影か黒くにじんだ。

 

 ん? 影?

 

 バッと勢いよく顔を上げ、シロの方を見る。シロの足元の影は・・・ない。

 

 まるで体と影が切り離されたように、シロの影は消えてなくなっていた。

「? クロ? どうかしたの?」

 いやまて、ここは白い部屋。窓も扉も・・・照明もない。こんな部屋のなかで、どうして足元に影が出来るのだろうか。

 この足元の影は、いったいなんなんだろうか。

「ねぇ・・・・・・そのうで、」

 驚きの混じったシロの声に腕を見ると、長袖の隙間から服と同じくらい濃い影が、やせた細い腕に絡みついていた。しかも、まるで生きているかのようにうごめくそれは、手首まで影を広げてきている。

「・・・・・・ッ?!
「クロッ!!
 異常な光景にすくみ動けないクロのかわりに、シロが影を払おうとクロの腕ごとつかむ。絵の具の水にとけるようにシロの手に影がにじむ。

≪シロが、シロが、クロに、黒によごれて・・・・・・!!

「さわるなッ!!

 声を張り上げシロの手を振り払う。影はクロからはなれても、シロの手に残っていた。

 そこで、クロは気づいた。

 

 

 自分はこの光景を知っている。

 そうだ、あのときもシロの手を振り払って、

 そのあと―――――
 

 途端、足元の影が白い部屋を浸食し始めた。

 水が布に染みこむようなものすごいスピードで、床だけでなく周りの壁や天井までを黒く染めていく。

「クロッ!?しっかりして、クロ!

 めまいを感じて、クロがしゃがみこむ。自分を気づかうシロの声が部屋の中に反響する。強く響いたそれは耳のなかをひどく痛めるが、今はそんなことどうでもいい。

「お前、知ってたんだろ・・・・・・」

 心臓を握りつぶされるような息苦しさのなか、押し殺したような声でつぶやく。すでに影が顔までかかっていたが、目だけは力強くシロを睨みつけていた。
 シロは目を見開き、そして、落胆したような顔でつぶやいた。

 「思い出したんだね、クロ」

 

「・・・・・・俺たちが、死んだって。俺のせいで、2人とも死んだってこと!!

 

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