※こちらは長編小説『君が死ぬまでのワガママを』の番外編です。
このお話単品でも読めますが、上記の作品を読んだ後ですと
さらに楽しめるのではないかと思います。
興味をもたれた方はぜひ上記リンクよりどうぞ。
Missing Message |
とある学校の屋上に、少女が一人たたずんでいた。 『・・・・・・死神』 少女の顔に驚きは見られない。おそらく自分と同類だろうと、なんとなく少女も察していたからだ。 『なら、仕方ないね』 死神はいっそう目を細めると、右腕を空高くかざした。朝焼けの風が渦巻くようにまとわりつき、その手のひらには、長い棒状のものが収められていた。 大きな鎌だった。物語に聞く死神が持っているような、少年の身長をゆうに超えるほど巨大なものだ。 少し赤みがかった真っ黒なそれが、少女の眼前まで突きつけられる。鈍色に光る刃先が、少女の喉元まであと数ミリというところで止まった。 『・・・・・・!』 息を飲んだ少女の姿に、ぐにゃりと歪む死神の顔。少しだけ、目を背けるように、小柄な少年の体がかしいだ。 手に持っていた鎌も、その動きに合わせ、少女から距離をとる。 だが、次の瞬間、死神の濁った瞳が見開かれ、獲物の姿を捉えた。 巨大な鎌の切っ先は、容赦なく少女の体へと振り下ろされた。 『―――ッ!』 少女は思わず目をつぶった。体を切り裂かれる感覚を覚悟し、歯を食いしばる。 『・・・・・・?』 だが、いつまでたっても、痛みは感じない。 少女はおそるおそる目を開けた。そして、再び目を見開いた。 『え』 少女の身体は、確かに切り裂かれていた。左胸から右の下腹部にかけて、無残にも鎌によって切り裂かれた跡が一瞬だけ見えた。 だが、それだけだった。肉も血も、骨もない今の少女には、流れ出るものは何もない。鎌の通った身体は塵が飛び散るように霧散したあと、再び少女の姿を形成していく。砂浜に残した足跡が波にさらわれ消えていくように、少女の体には何一つ代わりなかった。 『はい終わり。どう? びっくりした?』 目の前には、死神がしたり顔で笑みを浮かべている。 鎌を持つ手とは反対の手に、いつの間にか一冊の本が握られていた。朱色のハードカバーで、表紙には金字で模様や文字が描かれている。一見すれば、少女が中学生の頃にもらった卒業アルバムにも似ていた。 『私に、何をしたの?』 『大したことはしてないよ。キミの魂から、キミの“記録”を抜き取っただけさ』 『“記録”?』 死神は再び、手を頭上にかざす。役目を終えた巨大な鎌は霧散し、死神の手元には本だけが残された。 『そう、これを集めるのがボクの仕事。だからもう、ぬけがらであるキミに用はない』 『え?』 死神はおかしそうにいっそう笑みを浮かべる。にっと釣り上げられた口元からは、真っ白な犬歯がキラリと輝いた。 『キミを無理やり連れて行く理由がなくなったってことさ。せいぜい魂が消える瞬間まで、幸せに過ごせばいい。“記録”を抜いてしまったから、この世にとどまっていられる時間は短くなってしまったけどね』 『―――』 『けれどそれも、キミが望んだことだろう?』 その視線の意味を知った少女は、思わずため息を吐いた。 『・・・・・・あなたって人は、本当に、どこまでも人をからかうのが好きなのね』 『やだなあ、ボクは死神だよ?』 『どっちだってかまわないわよ。鎌を突きつけて脅したのはわざとだったのね?』 『さあて、なんのことかな』 『わざとらしい』 くすくすくす。二人分の笑い声が、乾いた屋上の中に響き渡る。顔の大部分まで出てきた太陽が、ほこりっぽい風と共にまばゆい日差しを運んでくる。けれどやはり、彼女らの足元に影はない。 一人は所詮死人で、もう一人は、死神だからだ。 『さて、ボクもそろそろ戻らないとね。ああ、言っておくけれど、記憶のほとんどはボクがとっちゃったから、キミはもう、家族のことも、友達のことも思い出せないよ』 『え』 『けれどね、強い想いと結びついた記憶だけは、どうしても引き剥がせないんだ。そればっかりは、魂ごと運ばないと取ることはできない。だから今のキミは、キミ自身のことは忘れているけれど、親友のことだけは覚えているんだ』 『・・・・・・』 『それじゃ、せいぜいお元気で?』 そう言うと死神は、風景の中に溶けるように消えていった。彼がいた場所には、コンクリート製の冷たい床が並べられている。 けれど寂しい気持ちはない。 |
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というわけで、ここまで読んで下さった方々、お疲れ様です。
今回の短編は長編小説『君が死ぬまでワガママを』の番外編として書かせていただきました。
きっかけは小説を読んでくれた友人がグレイを気に入って下さり、
『もしよかったら死神さんの短編小説書いてほしいな〜』
というお言葉をいただいたことから始まりました。
それを聞いた白乙が『よっしゃあ!やってやんよ!!』と
ノリノリで書いたものがこちらになります(笑)
本編とは違い、番外編のグレイは人型で登場していますね。
女の子はすでに死んでいるので、会話のために動物を依代にする必要がないため、人型で現れています。
ある意味これがグレイの本体ですかね。
ちなみにこの小説は、友人に見せたものを若干改変してあります。
理由は、当サイトのメイン(一応)である小説『生命の図書館』との関係性をリンクさせるためです。
この短編と同時公開した『03:死神』を読んでいただくと、作中でのグレイの行動とかが
よりわかりやすくなるかと思います。
気になった方がおられたら、作品名のリンクよりどうぞ!
ではでは、読んでいただきありがとうございました。
2013,05,26