twitter小説 【8】



 

 

 

青年の瞳が揺らめく。彼の右腕からは赤い血が滴り落ちていた。僕は血のついたナイフを握り直し、青年の首筋に押し当てる。脈打つ鼓動がナイフ越しに僕に伝わり、彼が口を開く前に刃を引き抜いた「殲滅完了」吹き出る血を尻目にあくびを一つ。暗殺者の長い夜はようやく終わった

 

秘密にしてた訳じゃない。たまたま俺とお前の好きな人が一緒で、お前の方が彼女と付き合うことになっただけだろう。いいからお前は、ちゃんと彼女と幸せになるんだ。だから泣くなって。せっかく我慢してるのに俺まで泣きたくなるだろ、バカ親友

 

雪に埋もれて私は泣いた。ふんわりとしたそれは私を優しく包むのに、痛いほどの冷たさがまた一つ血溜まりを作った。どんなに寒いと嘆いても、降り続く雪は止まらない。かじかんだ両手を重ね、凍ったまつ毛を静かに伏せた。私の春はいつ来るのだろう

 

夏祭りの帰り、君と神社に寄った。熱心にお祈りする君に何を祈ったか聞いてみるも、教えてくれない。僕は少しだけふてくされた。「貴方とずっと一緒にいられますようにってお願いしたの」ようやく聞けたのは数年後。純白のドレスに身を包んだ君が満開の笑顔を浮かべていた。

 

地味で太っていた彼女が痩せて、クラスで一番可愛い女の子になった。今日も告白する男子が絶えないが彼女は一切目もくれない。それでもすがる男達に彼女は微笑んでみせた。「私、二次元にしか興味ないんです」彼女の腕には、最愛の彼(フィギュア)が。 乙女の一念岩をも砕く。

 

この事は秘密ね。そう言って唇を寄せる君。さくらんぼのようなぷっくりとしたそれは甘い芳香を放つ。制服をまとった肢体が向き合うように膝の上に乗った。細い髪が優しく頬を撫でる「ね、センセイ?」赤い舌がちろりと覗く。私はこらえきれず、その甘い唇に噛みついた

 

君にさよならを言う時がきた。震える指先が紙の上に大きな染みをつける。蝕む病ともとうとうお別れだ。かけがえのない痛みを連れて、僕はようやく役目を終える。書きかけの手紙に突っ伏し、眠るように息を引き取った。 願わくば、今日も君が幸せでありますように

 

今日も貴方の夢を見る。夢の貴方はいつだって優しいから、私は私を許せなくなる。声も、顔も、名前でさえも忘れた私を、貴方はこんなにも愛してくれるから。ぼやけた視界が別れの合図。また思い出せなくなる前に、霞がかった輪郭を強く抱きしめた。

 

線香の煙がくゆる中、皆が一様に手を合わせる。来年の今頃も、もうこんな時期かと思っている頃だろうか。続けて手を合わせながら私はふと、庭に目を向ける。空を見上げる貴方を見たような気がして私は静かに目を閉じた。 告別式から一年。 また、貴方のいない春が来る。

 

まっさらな雪に赤い斑点が散る。寒いという感覚すらなくなってきていた。吐息のもれる口元も、とめどなく流れる血の色さえもこの雪は隠してしまおうとする。『それならせめてこの想いは』叶わぬ願いを雪に託し、私は静かに目を閉じた。




back top next









2014,06,08